感情を知る意味|心と体のバランスを取り戻す
感情を知ることは、自分をコントロールするためではなく、「自分という存在を理解すること」につながります。感情を丁寧に感じ取ることで、自律神経が整い、ホルモンの分泌も安定します。
リラックス状態では副交感神経が優位になり、腸が活発に動き、免疫力も向上します。
一方で、「怒ると血圧上がるよ!」という言葉があるように、怒りや不安を抑え込むと交感神経が過剰になり、胃腸の働きが停滞したり血圧が上がることもあります。
つまり、感情を知ることは「心の安定」だけでなく、身体の健康を保つ鍵でもあるのです。
感情と身体は“双方向ループ”でつながっている

具体的には、
怒ると心臓がドキドキする。悲しいと胸が苦しくなる。
反対に、深呼吸すると落ち着いたり、胸を張ると前向きな気分になったり。
これは偶然ではなく、感情と身体が互いに影響し合うループがあるからです。
- 身体の変化 → 感情が生まれる
- 感情が生まれる → 身体が変化する
この双方向のやり取りこそが、「こころとからだのつながり」です。
身体 → 感情(体の反応が“気分”をつくる)
感情は脳だけでなく、体の状態からも生まれます。
身体が反応する → その信号を脳が意味づける → “感情”として感じる という順序です。
- 心拍が上がる、呼吸が浅くなる → 「不安・恐れ」と感じる
- 呼吸が深まる、筋肉がゆるむ → 「安心・安らぎ」と感じる
- 腸の動きが停滞する → 気分が落ち込みやすくなる(腸は“第二の脳”)
つまり、感情とは体からのメッセージなのです。
感情 → 身体(心の動きが体の働きを変える)
感情が起こると、体内では自動的に自律神経が働きます。
自律神経とは?
心拍・呼吸・消化などを無意識にコントロールする神経で、状況に応じて2つのモードを切り替えています。
- 交感神経:活動モード。緊張・興奮・「戦う/逃げる」ためのスイッチ。
- 副交感神経:休息モード。リラックス・修復・癒しのスイッチ。
この2つがバランスを取ることで、心身の安定が保たれています。
機序: 感情 → 自律神経 → 身体の変化
- 怒り・不安 → 交感神経が優位 → 心拍上昇・血圧上昇・筋肉緊張・胃腸が止まる
- 安心・感謝 → 副交感神経が優位 → 呼吸が深まる・消化が促進・免疫が上がる
つまり、感情が変わると、体内のスイッチも切り替わるのです。
ホルモンも感情の橋渡しをする
感情が動くと、脳からホルモン(体のメッセージ物質)が分泌されます。
- アドレナリン:危険を察知したときに出る。体を「戦うモード」に。
- コルチゾール:ストレスホルモン。長期的な緊張で増えすぎると疲労や不調を招く。
- セロトニン:安心や満足を感じるホルモン。腸で約90%がつくられる。
- オキシトシン:「幸せホルモン」。人とのつながりや安心感で分泌される。
怒りや不安 → アドレナリン・コルチゾール ↑ → 心拍・血圧上昇・胃腸の不調
安心や喜び → セロトニン・オキシトシン ↑ → 呼吸が整う・体がゆるむ・回復力UP
感情⇄身体のループで整える
感情を無理にコントロールしようとすると、体に緊張が残ります。
しかし、体から整えると感情も自然に落ち着く。これが「こころとからだの双方向ループ」を活かす鍵です。
- 深呼吸 → 副交感神経が働く → 安心感が生まれる → 体の力が抜ける
- 怒りや焦り → 交感神経が働く → 呼吸が浅くなる → 不安が増す
つまり、感情と身体は互いにスイッチを押し合っているのです。
感情が身体を変える|ポジティブな姿勢が回復を早める

感情は一方的に身体に影響するだけでなく、身体の状態や姿勢、表情が感情を形づくるように、感情の持ち方もまた身体の回復に影響します。
ハーバード大学の研究では、「自分の回復に主体的に関わろうとする人」「前向きな感情を持つ人」のほうが、手術後や病気からの回復が早い傾向があると報告されています。これは、ポジティブな感情が副交感神経を活性化させ、免疫機能や組織修復を促すためです(Fredrickson, 2001)。
逆に、ストレスや不安が強いと、身体は「危険から逃げるモード(交感神経優位)」になり、回復に必要なエネルギーが抑えられてしまいます。つまり、感情は単なる気分ではなく、生理的な回復システムのスイッチでもあるのです。
現代人は“交感神経優位”に偏りやすい

現代社会では、多くの人が常に交感神経(緊張・戦うモード)で過ごしています。 スマホの通知・仕事のプレッシャー・人間関係のストレスなど、脳が休まる時間がほとんどありません。
交感神経は短時間なら集中力を高めてくれますが、長時間続くと体は常に「危険」と判断し、慢性的な緊張状態になります。
- 呼吸が浅くなる → 酸素不足・疲労感
- 筋肉がこわばる → 肩こり・腰痛・頭痛
- 胃腸が止まる → 便秘・食欲不振・胃もたれ
- 睡眠の質が低下 → 朝スッキリ起きられない
このように、体のスイッチが“休息モード(副交感神経)”に切り替わらないまま、常にアクセルを踏み続けている状態が「現代型ストレス反応」です。
副交感神経を働かせる=“安心”を思い出すこと

副交感神経が働くとき、体は修復・再生モードに切り替わります。 実はこれは「安心していい」「もう危険じゃない」という体からのサインでもあります。
- 深呼吸する → 脳が「安全」と判断 → 心拍が落ち着く
- ゆっくり話す・微笑む → 表情筋がゆるみ → 副交感神経が働く
- 湯船につかる・陽の光を浴びる → 体温上昇 → 緊張がゆるむ
つまり、副交感神経を整えることは「リラックスする」ためではなく、
生命が本来のリズムを取り戻すプロセスでもあるのです。
こころとからだを“分けない”生き方へ
私たちはしばしば「心が疲れた」「体が疲れた」と別々に語りますが、実際には同じ現象の表と裏。 心が落ち着けば体も回復し、体がゆるめば心も穏やかになります。 それが、感情と身体がつくる双方向ループの本質です。
だからこそ、感情を無理に抑えず、体の声を丁寧に聞くこと。
そして、忙しさの中でも少し立ち止まり「安心できる時間」を取り戻すこと。
それが今の時代における、最もシンプルで確かな“心身のケア”です。
参考文献
- Damasio, A. R. (1994). Descartes’ Error: Emotion, Reason, and the Human Brain. Putnam.(感情が身体から生まれる仕組みを神経科学的に説明)
- McCraty, R., & Childre, D. (2010). Coherence: Bridging Personal, Social, and Global Health. Alternative Therapies in Health and Medicine, 16(4), 10–24.(心臓と感情のコヒーレンスについて)
- Kiecolt-Glaser, J. K. et al. (2002). Emotions, Morbidity, and Mortality: New Perspectives from Psychoneuroimmunology. Annual Review of Psychology, 53, 83–107.
- Fredrickson, B. L. (2001). The Role of Positive Emotions in Positive Psychology: The Broaden-and-Build Theory of Positive Emotions. American Psychologist, 56(3), 218–226.(ポジティブ感情が回復を促す理論)
- Crum, A. J., Salovey, P., & Achor, S. (2013). Rethinking Stress: The Role of Mindsets in Determining the Stress Response. Journal of Personality and Social Psychology, 104(4), 716–733.(ストレスへの心の持ち方が生理反応を変える研究)
- Sternberg, E. M. (2001). The Balance Within: The Science Connecting Health and Emotions. W.H. Freeman and Company.
- Thayer, J. F., & Lane, R. D. (2009). Claude Bernard and the heart–brain connection: The neurovisceral integration model of emotion regulation and dysregulation. <em>Journal of Affective Disorders, 112(1–3),</em> 3–13.(副交感神経と情動調整の関係)


コメント