自分らしさは“行動”で形づくられる──人×行動×環境で生まれる存在意義

自分らしく心豊かに生きる

自分らしさは「内側」だけでは完結しない

多くの人は「自分らしく生きたい」と願いますが、
実際にその“自分らしさ”を感じる瞬間は、内面の中だけではなく、行動と環境の中で生まれています。

例えば、
・好きな仕事に没頭しているとき
・自分の考えを安心して話せる人と一緒にいるとき
・自分なりのこだわりや工夫を形にできたとき

こうした場面では「自然体でいられる」「無理していない」と感じやすい。
つまり、自分らしさとは、“安心できる環境の中で、自分の価値観を行動として表現できている状態”なのです。

人×行動×環境で形づくられる「自分らしさ」

作業科学の分野では、私たちの“存在の意味”を次の3つの関係で説明しています。

人 :価値観・信念・あり方

行動:日常で行う行動・仕事・活動

環境:人間関係・社会・物理的空間

この3つのバランスが取れているとき、人は「自分はここにいていい」「これが自分だ」と感じられます。
逆に、価値観と作業がずれていたり、環境が合っていなかったりすると、
たとえ能力があっても“自分でないような感覚”が生まれます。

心理学が語る「真正性」と自然体

心理学では、“自分の価値・信念に沿って行動しているか”を「真正性(authenticity)」と呼びます。
真正性には次の3つの側面があります。

自己疎外(self-alienation):本当の自分を見失っている状態

外部影響の受容(accepting external influence):他人の評価に左右される状態

真正な生き方(authentic living):自分の内側に沿って行動している状態

研究によると、真正に生きている人ほど自己肯定感や幸福感が高く、
反対に“外部影響”や“自己疎外”が強いと心理的なストレスや疲弊が起こりやすいことが分かっています。

職場などの環境で「自分らしくいられない」と感じるとき、
それは多くの場合、この真正性が阻まれている状態=自分を守る必要がある状態にあります。

環境が“自律性”を支援してくれるとき、人は自然体になる

真正性は、本人の意志だけで保てるものではありません。
環境の側に「自律性を支援してくれる要素」があるとき、
人はより自然に自分を表現できるようになります。

例えば、
・自分の意見を尊重してくれる上司や同僚がいる
・やり方を自分で決められる自由がある
・失敗を責めず、試行錯誤を認めてくれる雰囲気がある

このような環境では、心と体の緊張がほぐれ、
「安心して自分の力を発揮できる=自然体でいられる」状態が生まれます。

防御がいらない環境でこそ、本当の自分が表れる

他人の目や評価に敏感な環境では、知らず知らずのうちに体を固くし、心を守るようにふるまっています。

例えば、
・会議で意見を言うときに「間違っていたらどうしよう」と緊張する
・同僚の視線やトーンに反応して、呼吸が浅くなる
・失敗を恐れて、自分の考えを抑える  など

こうした“防御的な状態”では、真正性が働かず、
「自分の感覚」よりも「どう見られるか」が優先されてしまいます

逆に、安心できる人間関係・整った空間・自分のペースを許す環境があるとき、
人は自然と体が緩み、本来の自分らしい表現が戻ってきます。

作業観を満たす選択が“存在意義”を育てる

自分らしさを形づくるには、自分の価値観を行動(作業)に反映させることが欠かせません。
文献では、これを「作業観」と呼び、
人がどのような考えで仕事や活動を選び、どんな意味を見出しているかを指します。

「人の役に立つことが嬉しい」なら、サポートする仕事を選ぶ。

「創造するのが好き」なら、自由に試せる環境を求める。

「丁寧に暮らしたい」なら、ゆとりある時間の使い方を選ぶ。

こうして自分らしい選択を継続して体験することで、
「これが自分の生き方だ」と実感でき、存在意義が自然に芽生えます

まとめ|“自分らしさ”とは、環境の中で価値観を表現すること

自分らしさや存在意義は、頭の中で探すものではなく、
「日々の作業の中で、自分の価値観をどう表すか」という行動から生まれます。

人(自分の価値観)

作業(その価値を表す行動)

環境(それを受け入れる場)

この3つが重なったとき、人は“真正性”を感じ、
防御のいらない、穏やかで力強い「自然体」でいられるのです。

参考文献

  1. 日本作業療法士学会. (2019). 「作業を通した自己の表現と存在意義の形成」 日本作業療法学会誌, 3(1), 7–14.https://www.jsso.jp/JJOS/JJOS3(1)/JJOS3(1)-07.pdf
  2. Kernis, M. H., & Goldman, B. M. (2006). A multicomponent conceptualization of authenticity: Theory and research. Advances in Experimental Social Psychology, 38, 283–357.
  3. Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Psychologist, 55(1), 68–78.
  4. Heppner, W. L., Kernis, M. H., Nezlek, J. B., Foster, J., Lakey, C. E., & Goldman, B. M. (2008). Within-person variability in state authenticity as a function of daily events and mood. Journal of Research in Personality, 42(5), 1193–1202.

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